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ファイナル・最終戦 〔SJ MONTHLY WATCH 13〕 佐々木 明
もっとも危険なスラローマー
| 第1シード確定。 | | スラローム最終戦も5位入賞で、種目別総合は11位に躍進
| セストリエール
(イタリア) で行なわれたワールドカップ・スラローム最終戦。佐々木明は力を抑えたていねいな滑りで、1本目を6位で終えた。キッツビューエルでの第6戦から続けていた
「7割の力で9割のスピード」 というテーマに則った戦略的な滑りを、この日も実行したのである。その滑りはまったく乱れず、失敗の不安など微塵も感じさせなかった。アタックしたいというレーサーとしての本能を固く封印し、確実にゴールすることだけを考えた滑りだった。しかし、それでもなお、佐々木のスラロームは速かった。スタートからゴールまで、1旗門たりともアタックしなかったにもかかわらず、トップのマンフレッド・プランガー
(オーストリア) とは、0秒92というわずかなタイム差しかなかった。 2本目。スタートハウスで自分の順番を待っているとき、佐々木は、傍らにいるサービスマンの伊東裕樹にこう言った。
「行っちゃっても、いいよね?」。 それは、今季のワールドカップ締めくくりの1本を、全開のアタックで滑るという決意の確認だった。ひょっとすると失敗するかもしれない、だけど、もう完走をねらって抑えることはしない。そんなリスクを負ったギャンブルに出ることに、伊東の同意を求めたのだった。もちろん、伊東も思いは同じだった。彼は、さも当然のように、答えた。
「行くしかないだろ」。 ぶっきらぼうだが、しかし力強いこのひと言に、佐々木はおおいに勇気づけられたという。 もっとも、佐々木自身、このレースでは誰が何と言おうと、思いきりアタックするつもりだった。キッツビューエル以降の4戦は、第1シード昇格と最終戦への出場権獲得
(注・ワールドカップ最終戦には各種目のポイントランキング25位までとジュニア世界選手権優勝者しか出場できない)のために、確実にゴールしてポイントを重ねるという我慢のレースだった。このねらいは成功し、シュラドミング17位、アデルボーデン7位、サンアントン13位、そしてクラニスカ・ゴラ4位。これらの結果から、現在の佐々木ならば、たとえ抑えて滑っても、充分に上位入賞が可能だということはわかった。では、フルにアタックしてそれが成功したとき、いったいどれだけ速いのか? 最終戦への出場が決まったとき、佐々木はそれを試そうと決意していた。
2本目の佐々木は、スタートから激しい突っ込みを見せた。完走ねらいという縛りから解き放たれ、本能のままにスキー板を走らせたのである。とくに急斜面の滑りは圧巻だった。コースはすでに荒れ始めていたが、彼はまったくおかまいなしにインを突いた。ほとんどスキー板を横にすることなく、下に向かってまっすぐ身体を落としていった。前半のスプリットタイムは、全選手中最速。この時点でトップに立っていたのはマリオ・マット
(オーストリア) だったが、中間計時では佐々木のほうが0秒81も上まわっている。だが後半の緩斜面、あとわずかでゴールというところで、佐々木はミスを犯した。左ターンで身体が遅れ、ラインがあふれてしまったのだ。体勢の乱れはごくわずかなものだったが、スキー板の走りには致命的なミスだった。緩斜面ではいったん失ったスピードを取り戻すことはほとんど不可能である。佐々木は残りの数旗門をもがくように滑り、ゴールに入った。この時点では辛うじてトップだったものの、その後4人に抜かれて、合計タイムでは5位となった。
しかし、この日の佐々木の滑りは、彼がいかに爆発的な速さを持っているかということを、明確に示したと言ってよいだろう。ライナー・シェーンフェルダー
(オーストリア) とカレ・パランダー (フィンランド) の種目別優勝争いが注目され、実際、最後まで激しい戦いとなったスラローム最終戦だが、このレースでもっとも輝きを放っていたのは、まちがいなく佐々木明である。残念ながら、現時点では完成度という点でまだ課題が残っているものの、本気でアタックしたときの速さは、目を見張るものがある。この写真の右上のほうに写っているのは、各国のコーチたちだが、彼らにとって、佐々木明の存在は、今後ますます大きな脅威となっていくに違いない。 |