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【2004年SJ5月号】
終盤戦 「勝利の女神 はどこにいる?」
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〔SJマンスリーウォッチ 12〕
佐々木明

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03/04 Audi FIS AlpineSki Worldcup 終盤戦

勝利の女神はどこにいる?

シュテファン・エベルハルター 1975年のシーズン、ワールドカップ総合優勝のタイトル争いは、熾烈を極めた。イタリアの国民的英雄、グスタボ・トエニ、カイザー (皇帝) の異名を持つオーストリアの滑降王、フランツ・クランマー、それにスウェーデンの天才スラローマー、インゲマル・ステンマルク。当時のアルペンスキー界を代表する3人のスーパースターが、最終戦を前にまったく同点で並んでしまったのだ。それぞれ得意種目を異にし、出場レース数が違うのにも関わらず、彼らの得点はすべて240点。偶然とはいえ、この年の3人がいかに拮抗した力で争っていたかを示す事実と言えるだろう。

 結局、決着は、シーズン最終戦のパラレル・スラロームでつけることになり、決勝でステンマルクを破ったトエニが74/75シーズンのワールドカップ・チャンピオンに輝いた。滑降を得意とするクランマーにとっては、いささか分の悪い戦いであり、個人的には、今でもこの決着のつけ方には疑問が残る。だが、それはともかくとして、ヴァル・ガルディナ (イタリア) で行なわれたこの75年の最終戦は 「ガルディナの決戦」 と呼ばれ、30年近くたった今でも、オールドファンの間では語り草になっている。

 03/04シーズンのアルペンスキー・ワールドカップは、この75年に負けないほどの混戦模様である。原稿執筆時点で総合優勝の可能性があるのは、ヘルマン・マイヤー、ボディ・ミラー、シュテファン・エベルハルター、ベンジャミン・ライヒの4人。実際には、本誌発売時には、すでに結果が出ているわけだが、最終戦を前に4人がタイトルを争うというのは、かつてないことである。たいていは、ふたりかせいぜい3人で競る場合がほとんどで、ときには突出した力を持つ選手が、最終戦を待たずに早々とタイトル獲得を決めてしまったりする。しかし、今季の争いは、本当に最後までわからない。残りのレース数と、各選手の特徴から、タイトルの行方を予想しても、考えれば考えるほど頭はこんがらがるのだ。アルペンファンにとって、これほど興奮するタイトル争いは、初めてだろうし、おそらく勝利の女神も、今頃は誰につこうか悩んでいることだろう。

 昨シーズンはシュテファン・エベルハルターとボディ・ミラーの争いだった。ダウンヒルとスーパーGを中心に戦うエベルハルターに対して、4種目全レース出場を頑ななまでに続けるミラー。勝負は最後までもつれたが、最後にミラーが息切れして、エベルハルターが栄冠をつかんだ。オーストリア対アメリカ。年齢もキャラクターも対照的なふたりの争いは、ワールドカップの人気を盛り上げるのには恰好の構図だった。そして、その興奮のさなかに人々はこう思ったはずだ。
「来年はヘルマン・マイヤーが戻ってくる!」。エベルハルターとミラーの争いでさえ、これだけおもしろいのだから、これにヘルマンが加わったらどんなにすばらしいだろう? 誰もがそんな展開を夢想し、03/04シーズンに思いを馳せたのではないだろうか。

 そして今シーズン、本当にヘルマンは戻ってきた。2001年のオートバイ事故による長いブランクから奇跡的に完全復活したヘルマンは、かつての強さを取り戻しただけでなく、人間的な魅力をも増して、ファンの前に現われた。かつての彼はひたすら強く、強すぎることでときには傲慢ささえ感じさせたのだが、選手生命の危機をさまよった後の彼は、何とも言えない深い魅力が加わったように思う。強すぎるレーサーから、強くて愛されるレーサーへと変身を遂げた彼は、ふたたびタイトル争いに加わってきた。

 さらに驚くべきことに、今季はベンジャミン・ライヒまでも参戦し、四つ巴の展開となったのだ。これまでの技術系だけでなく、スーパーGにも得点源を求めた彼はさらにパワーアップ。まだ若いが、ワールドカップチャンピオンを争うにふさわしい力を身につけた。

 かくして、03/04シーズンのワールドカップはかつてない激戦となった。勝負の行方は、複雑に絡み合い、もつれ合いこんがらがっている。その混戦に決着をつける勝利の女神は、迷いに迷った末に、はたして誰に微笑むのだろうか? 

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