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終盤戦 〔SJ MONTHLY WATCH 12〕 佐々木 明
助走の先に見えるもの
| 表彰台まであと100分の5秒。 | | だが、行く手には、もっと大きな成果が見えてきた
| 今シーズン半ば、佐々木明はレースに対する戦略を転換した。それまでは、失敗は覚悟のうえでフルにアタックするというのが彼の滑りであり、そんなスリリングな戦い方が彼の大きな魅力でもあった。
だが、今季のキッツビューエル以後、佐々木の滑りから危険な香りは漂わなくなった。自分の力の範囲内で安全な滑りに徹し、ゴールすることを目標とするようになったからだ。今の彼の力ならば、抑えて滑っても2本目には残れる。だからとくに1本目から必要以上にリスクを負うことはせず、完走してポイント獲得をめざす、というのがその理由である。
佐々木が非凡なのは、そんな戦略の転換をみごとに成功させた点にある。キッツビューエルこそ途中棄権に終わったものの、続くシュラドミングで17位、さらにアデルボーデン7位、サンアントン13位と3レース連続して入賞。これで今季の目標のひとつであった最終戦への出場をほぼ決定し、さらに第1シード入りへの重要な足場を築くことにも成功した。
「7割の力で9割のスピード」。これがこの時期の佐々木がめざしていたテーマである。余計な力みや無駄な冒険を避け、失敗のリスクを極力減らすこと。ただし、スキー板はけっして横にせず、下に向けて走らせること。そうして着実にゴールすれば、入賞圏内のタイムは充分にマークできる。そう彼は考え、それが正しいことを彼は、レースの結果ではっきりと証明した。
一方で、彼のレースから、いちかばちかのスリリングな魅力が薄れていたのも事実である。そして、それを誰よりも歯がゆく感じていたのは、もちろん佐々木自身であった。彼本来の攻撃的な滑りを封印し、着実にポイントを重ねるという戦略は、誰よりも強い闘争心を持つ佐々木には、とても苦しいものだったのだ。
クラニスカ・ゴラでのスラローム第10戦は、そんな彼にとって久々に思いきりアタックできるレースだった。すでに最終戦への出場は決まっているので、たとえ、ここでポイントが取れなくても、失うものはそれほど大きくない。だから、このレースはポイントではなく、順位をねらっていこうと彼は思った。しかし1本目、佐々木は前半で大きなミスを犯し、一瞬、ほとんど止まりかけた。前半のスプリットタイムは22位。それでも2本目に進むには充分なタイムだったが、彼は、後半でそうとう急がないと大変なことになる、と思ったという。そこからの彼はひたすら攻撃する本来の滑りで遅れを取り戻し、11位にまで挽回して2本目に進んだ。そして2本目は5位に相当するタイムで、4位に上昇。3位のマリオ・マットとは、わずか100分の5秒差だった。2度目の表彰台は逃したものの、彼は自信をさらに深めた。アタックの封印という、苦しいが大切な助走を経て、彼は自分の行く手に大きなものがあることを確信した。彼が、いつ、どこでそれを実際に手に入れるのかはわからない。しかし、それが日本のアルペンスキー界における過去のどんなものよりも、重要な価値のあるものであることは、おそらくまちがいないだろう。
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