クラシック・シリーズ
〔SJ MONTHLY WATCH&INTERVIEW〕 カレ・パランダー
解き放たれた才能
このインタビューは、シュラドミングのナイト・スラロームが終了後に収録したもの。時刻は、すでに夜の10時過ぎ。表彰式や数多くのテレビインタビュー、さらにはプレスセンターでの共同記者会見などをすべてこなした後の、無理なリクエストだったのにもかかわらず、カレ・パランダーは快く応じてくれた。この日は3位。昨年に続くシュラドミング2連勝はならなかったものの、依然、好調をキープしている。スラローム・チャンピオンの座を防衛することはできるのか? GSで突然ブレイクした理由は何か? 以下は、今、もっとも波に乗り、もっとも注目すべきレーサーのひとり、カレ・パランダー
(以下、KP) の生の声である。
―― 今シーズンのスラローム第2戦 (マドンナ・ディ・カンピリオ) のスラロームで、あなたは2年半ぶりに完走できなかった。あの失敗によって、何か流れが変わったようなことはあった?
KP たしかに久しぶりの失敗だった。ついていない日だったね。それまで僕はワールドカップでは22レース連続でゴールしていることになるんだけど、スラロームで22レースも続けて完走するなんて、そのこと自体が異常なことだ。普通ならば、もっとたくさん失敗してもおかしくない。スラロームとはそういう競技だしね。あらゆることが、一瞬のうちに起こり、それに対処することはほとんど不可能だ。だから、いつか自分が失敗してゴールできない日が来るとは思っていた。
―― そのレースの前に交通事故に逢ったそうだが?
KP そう。アルタ・バディアのGSで初優勝して、すぐにマドンナ・ディ・カンピリオに移動したんだけど、その途中で事故が起こった。山道で岩の壁に激突したんだ。運転していたのはチームのスタッフで、僕とサミ・ウォティラが後部座席に座っていた。
―― ケガは?
KP 膝を少し打った程度。ちょうどシートベルトを外していたときだったので、危なかったんだけど、ケガというほどのことではなかった。
―― ショックだった?
KP その瞬間は、何が起こったかわからなかった。1分間くらいは、ぼうっとしていたかもしれない。でも、みんな無事だったし、サミもケガがなくてほっとした。
―― 乗っていたのはチームの車?
KP そう、いつも使っているアウディのA6ワゴンだ。
―― アウディは、フィンランドチームのスポンサーだけど、思いがけずアウディの安全性を証明した。
KP 別に、証明したくて事故ったわけではないけどね (笑)。たしかにアウディは安全な車だと思うよ。
―― ところで、スラロームのタイトル争いが非常に厳しいけれど、これについては?
KP そうだね。僕を含めてたくさんの選手にチャンスが残されている。
―― タイトル防衛の自信は?
KP もちろん、それをねらってはいるが、簡単なことではない。まだ4レースが残っているから、先を予想することはむずかしい。何が起こってもおかしくないよ。今はベニー
(ベンジャミン・ライヒ) がとても調子をつかんでいるし強敵だ。
―― 残りの4レースとも、非常にむずかしいコースでのスラロームだけど。
KP そう、アデルボーデンとクラニスカ・ゴラは技術的に非常に高度なものが要求されるコースだ。最終戦のセストリエールも長くてタフなコース。サンアントンは、まだ滑ったことがないけど、たしか急斜面だと思う。
―― すべては今後の戦いしだいということ?
KP 1レース1レースがとても大事になってくる。勝つことも大事だけど、確実にポイントを重ねることが重要だ。それに今シーズンはGSの調子も良いので、そちらのほうにも力を入れたいと思っている。
―― 今年は、フィンランドチームの若手が伸びてきている。ウェンゲンではユッカ・レイノがウィンスターをとったし、ヨニ・カイターラも入賞。彼らの活躍は、刺激になると思うが。
KP もちろん大きな刺激になっている。ウェンゲンでは僕自身はコースアウトしたが、レイノが11位になった。彼にとってはもちろん、チームにとってすばらしい出来事だった。レイノは、前からトレーニングではいつも速かったから、いつかレースでも結果を出すと思っていた。カイターラは僕よりも6歳も若くて、まだヨーロッパカップチームにいるんだけど、ものすごくパワフルな滑りをするから、近い将来、ワールドカップのトップにくる可能性は高い。
―― GSに関してだけど、昨シーズンは前半戦はまったく成績が出なかった。1本目で途中棄権したり、ゴールしても2本目に進めなかったり。でも中盤から調子に乗り始めて、一気に成績が上がった。その理由というのは何だと思う?
KP 前半は、スタート順が悪すぎたんだ。60番台のスタート順だったからね。トレーニングはずっと続けていたし、いつかはGSでも成績が出ることは信じていた。でもスタートが遅いことは大きな障害だった。開幕戦のゾルデンは、コースが荒れていてチャンスはほとんどなかったし、次のヴァル・ディゼールでも同じ状況だった。そんなことが続いたから少し嫌気が差して、もうGSに出場するのはやめようと思ったんだ。そしたら、コーチのクリスチャン・ライトナーからひどく怒られた。
「ふざけるなっ!」てね。それで仕方がなくアルタ・バディアにも出ることにしたんだけど、このときスキー板を少し短いものに変えたんだ。クリスチャンに怒られたことで気合が入ったのと、このスキー板が自分に合っていたことで、僕のGSは変わったんだ。―― たしかに、それからはGSの成績が急激に良くなっている。
KP サンモリッツ世界選手権では2本目にセカンドベストを記録して6位に入賞したし、リレハンメルの最終戦でも6位になった。ヨンピョンでは、コースが荒れていたので転倒してしまったけど、中間タイムは1位だったんだ。スタート順に関して言えば、400点ルールも大きかった。つまり、ワールドカップポイントがトータルで400点以上になると、他の種目でも第1シードのすぐ後にスタートできるというルールなんだけど。僕は、シュラドミングのスラロームが終わった段階で400点を超えたので、サンモリッツ世界選手権ではGSでも早いゼッケンがもらえたんだ。
―― まるで航空会社のマイレージプログラムみたいだね。
KP まったくその通り。いきなり良い条件が与えられるわけだから、これを利用しない手はない。それからは、ますますGSに力を入れた。成績が急に良くなったのは、そんな理由もあったんだ。もともとGSは好きだった。スラロームよりも技術的にむずかしいし、GSで速いレーサーは、スラロームスペシャリストよりも尊敬される。本当の意味でスキーがうまいということだからね。
―― アルペン4種目の中で、GSがもっともむずかしいというレーサーは多いけど、あなたもそう思う?
KP まったく同感だね。だからワールドカップで1度はGSの表彰台に立ってみたいと、長い間願い続けていた。
―― 今シーズンのアルタ・バディアでその夢が実現した。2レースあって最初が優勝で、次が2位。最高のレースだったと思うんだけど。
KP 完璧なレースだった。夢を見ているみたいで信じられなかった。とくに最初のレースは、クレイジーな1日だったよ。1本目でトップに立って、しかも2位にいるのがボディ・ミラーだ。ボディはあの時点でGSの調子が最高だったし、勝てるとは思っていなかった。でも、僕の滑りが信じられないくらい良くて、優勝してしまった。
―― 翌週のレースは、同じアルタ・バディアでもコースコンディションがかなり違っていた。
KP そう、わずか1週間で、ものすごく硬くなっていた。だからより強いパワーが必要だった。でも、あれがアルタ・バディア本来のコースだと思う。そこで2位になれたのは、うれしいことだし、誇りに思う。実は、アルタ・バディアの最初のレースから、GSモデルが新しいものに変わったんだ。練習で使ったのは2日間だけだったけど、すごく良いフィーリングだったので、レースではスキー板を信じてフルにアタックした。
―― 今シーズンのGSのスケジュールは、コンディションの維持がむずかしいのではないか。1月初めにフラッハウでレースをした後は、2月8日のアデルボーデンまでまったくGSのレースがないわけだから。
KP そうだね。フラッハウ以降は、スラロームが多いから、どうしてもスラローム中心のスケジュールになる。僕の場合、フラッハウの後、2日間のGSトレーニングをした。けっして充分ではないけど、この後、キッツビューエルに行って4日間のトレーニングを予定している。そこで、アデルボーデンに向けて調子を上げていきたい。
―― アデルボーデンは、とてもむずかしいGSコースと言われているけれど、自信は?
KP 斜面の変化が多く、スピードの速い旗門が立つのがアデルボーデンの特徴だ。だから、どちらかと言えばスーパーGを得意とするレーサーが有利になるので、僕のような選手が勝つのはむずかしいだろう。
―― たしかに去年はハンス・クナウスが勝ったし、その前はディディエ・クーシュが優勝している。ふたりともどちからと言えばスーパーGの選手だ。
KP そう。でも僕にもチャンスがないわけではない。あそこで勝つのは簡単ではないけど、可能性はあると思っているよ。
総合優勝? 今年は無理だろう。でも来年はわからないよ
―― これは、あくまでも仮定の話になるんだけど、もし今シーズン、スラロームとGSの種目別タイトルを両方とれたら、総合優勝のチャンスも出てくるのではないか。たとえば94/95シーズンにチャンピオンとなったアルベルト・トンバのように。
KP 総合優勝のことは、あまり考えていない。たしかにチャンスはゼロではないが、残りのレース数からして、非常にむずかしいだろう。総合のタイトルをねらうならば、少なくとも3種目をやる必要があるし、ボディ・ミラーやライヒのように、4種目すべてに出場する選手もいる。だから、総合に関して今季の目標としているのは3位。去年が4位だから3位になれればうれしいよ。
―― GSではすでに新しいモデルを使っているということだけど、スラロームモデルのほうは?
KP キッツビューエルからニューモデルを使っている。大きな違いはないんだけど、フィーリングとしては少し軟らかくなっている。調子はすごくいいよ。実際、キッツビューエルでは勝てたわけだし。ただ、今日のシュラドミングのような、極端に硬いアイスバーンでは、スキー板ももう少し硬めのものをチョイスすべきだったかもしれない。
―― 今日はライヒが1位で、あなたが3位。ライヒも同じアトミックを履いているけれど、ふたりの使うスキー板に何か違いはあるのだろうか?
KP 大きな違いはない。ただ、ベニーのスキー板のほうが少し硬くできている。なかにアルミを使ってあるんだ。以前はかなり違うタイプのものを使っていたようだけど、今はほとんど同じ。いずれにしても、スキー板に関しては非常に満足している。それよりも大きな違いは、ブーツだろう。彼はラングだし、僕はアトミックのブーツ。ラングというのはとてもアグレッシブなブーツで、アトミックは、もっとフィーリングを重視したスムースな性格を持っている。どちらが良いというわけではないが、そういう違いはたしかにある。今日のようなアイスバーンでは、ラングのほうがわずかにアドバンテージがあったのかもしれない。
―― 最後の質問だけど、昨シーズン以来のあなたの活躍でフィンランドにおけるアルペンスキーの状況に何か変化は感じられる?
KP 変化はたしかにあると思う。今年はとくにそれを感じる。たとえば、今日も会場に多くのフィンランド人が応援に来てくれていた。去年、ここで見たフィンランドの国旗はたった1本だったけど、今日は15本くらいあったんじゃないかな。フィンランドは、これまでクロスカントリースキーが最大のスポーツだったのに、3年前にドーピングに関するスキャンダルが起こって一気に人気が冷めてしまった。その替わりというわけではないのだろうが、アルペンの人気が高くなっていることはまちがいない。人々にこのスポーツのおもしろさが理解され、テレビの視聴率も急激に上がっているみたいだ。もちろんそれはうれしいことだし、僕にとって大きな励みとなっているよ。
翌週、カレ・パランダーはアデルボーデンのGSで優勝した。
「あのコースはスーパーGに強い選手じゃないと勝つのはむずかしい」 と言っていた難コースを、みごとな滑りで制した。これで種目別ランキングでトップ。本人ですら予想もしていなかった、GSチャンピオンの座に大きく近づいた。一方、スラロームのタイトル争いでも優勝圏内にぴたりとつけており、94/95シーズンのアルベルト・トンバ以来の技術系2冠王の可能性も充分だ。もちろん、他にもチャンピオン候補は数多くおり、その展開は予断を許さない。しかし、今の彼の勢いを見る限り、シーズン終盤も技術系種目は彼を中心にまわっていくことはまちがいないだろう。